音楽業界と広告業界は似ている

音楽業界といえば、いわゆる業界人と言われる職種の人たちの中でもとりわけ華やかであり、

アーティストや腕のあるプロデューサーがそれぞれのセンスを以てして思い思いに作詞作曲を行い、市場を形成しているもの‥だと思っていました。

 

しかしながら、音楽制作にまつわる本をいくつか読んでみると、実際にはもっとビジネス的であり、その制作フローは広告業界に近いかたちで進められていることがわかります。

特にバンドマンやシンガーソングライターではない、自らが作詞作曲を行わないタイプのアーティストの場合は、新曲を制作する際、コンセプトやタイアップ内容に沿った楽曲をプロの作曲家から募るところから始まります。作曲家は制作した楽曲のデモテープを応募し、アーティスト(もしくはそのプロデューサ)は集まった楽曲の中から最も良い1曲を選定します。コンペティションですね。

 

さらに、決まったデモテープ楽曲がそのままのかたちでレコーディングに入ることはなく、またそこからアーティスト側の意向に合わせてマイナーチェンジを繰り返していくことになります。クライアントからのお戻しですね。

 

このようにしてアーティストの楽曲は作られていきます。この、コンペティション▶制作▶戻し▶制作▶戻し... の流れは広告の制作フローと非常に似ています。

 

こうした「クライアントワーク」的な作曲ビジネスを行っている典型的な人物として、小室哲哉氏があげられます。

 

上記の番組では、小室哲哉が某電気機器会社と某自動車会社をクライアントとして、CMの楽曲制作を行っていた期間を密着しています。

 

まず、CMとのタイアップが先に決まっているので、使ってほしいフレーズや商品名を歌詞に入れるか、などを打ち合わせで決めるところから制作が始まります。

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作詞作曲にとりかかり小室哲哉が最初に提案した楽曲は、後にglobeから発売される「Joy to the love」でした。しばらくは、オーケーオーケーいい感じの曲だね、とクライアントからの反応も良く進んでいましたが、ところがどっこい、とあるタイミングで「もっと明るい曲調が良い。全部ボツで、1からまた作りなおして欲しい。」というオーダーを受けてしまいます。

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締切も迫っていたので、小室哲哉はそこから夜を徹して全く新しい曲を作りました。

 

なんとか作り上げ、満を持して提案したその楽曲に対する返事は、「やっぱりもとの曲に戻して欲しい」でした。オーマイガッ。

するとまた小室哲哉は、最初の曲(Joy to the love)に明るいアレンジを加えるかたちで作り直し、世に出す結果となりました。

完全に宙に浮いてしまうかたちとなった2番目の曲について尋ねられると、「絶対売れますよ。あの曲は。」という捨て台詞を残して去っていきます。

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この曲こそ、後にミリオンセラーを達成する華原朋美の「I BELIEVE」だったのです。全盛期の小室哲哉はすごいですね。

彼のように、作詞作曲家でありながら自らの作家性を主張すぎることなく、合気道のようにうまい具合に創造性とビジネスの折り合いをつけている様はめちゃくちゃクールだなと思いました。